本作はフィクションです。
登場する人物・団体・名称などは架空のもので、実在のものとは関係ありません。
作中の描写は物語上の演出であり、特定の行為を推奨する意図はありません。
「ハッ……ハッ……」
カーテンを閉め切った狭い部屋に、男が一人いた。
エアコンも止まった室内には熱と湿気がこもり、汗のにおいを帯びた空気が重たく滞っている。
荒い息を吐きながらスマホを片手に持ち、もう一方の手で自身の肉棒をゆっくりとしごいていた。
どう見ても、自慰に耽るただの男だった。
けれど彼――いや、彼女は、かつて女だった。
佐藤久美――かつては病院で、上司にも後輩にも慕われる看護師だった。
整った顔立ちと豊満な身体つきは、入院している男性患者たちの憧れの的でもあった。
だが今では、そのキャリアも肉体も失ってしまった。
ある一人の男との出会いが、彼女からあらゆるものを奪った。
(あ……あぁ……私の身体だったのに!!)
スマホに映っているのは、豊満な胸をナース服から零れさせ、男に跨がっているかつての自分自身の姿。
その写真を見ながら、彼――いや、彼女こと佐藤久美は、男の自慰にのめり込んでいた。
かつての自分の姿を見ながら欲情するなど、本来なら嫌悪しか覚えないはずの行為だった。
だが、一度だけと禁を破ってしまってからは違う。
抵抗は少しずつ薄れ、今ではもう、慣れた手つきで肉棒を慰めてしまう。
惨めなはずなのに、その快楽を感じている間だけは、奪われた人生も、目を背けたくなる現実も、何もかも忘れられた。
「あぁ……くぅ……」
この写真を見るたび、思い出す。
初めて肉体を入れ替えられ、男の快感を知ってしまったあの日を。
だが、それももう一年前のことだ。
写真を見つめながら、薄れかけた記憶を手繰り寄せる。
かつて自分のものだった、あの肢体の美しさ。
ふくよかな双丘の重みも、指先に沈むような柔らかさも、まだ忘れられない。
そして何より、熱く熟れた奥の感触だけは、今も生々しく記憶に残っていた。
「くぁ……でるっ!?」
ドピュッビュルル。
吐き出された白濁が手と床を濡らしていく。
荒い息だけが狭い部屋に残る。久美は後始末をする気力もなく、そのまま床に身体を投げ出した。
「はぁ……はぁ……あぁ……なんでこんなことに」
退院してから、すでに一年あまりが過ぎていた。
退院後しばらくして、久美は仕事を探し始めた。
男として生きることに納得したわけではない。
それでも、生きるためには働くしかなかった。
だが現実は厳しかった。
中年の男を雇ってくれる会社は少なく、この身体の男が以前就いていた仕事も、久美にはうまくこなせない。
反対に、久美として長年積み上げてきた看護師の経験も、男の経歴では活かしようがなかった。
そう思い知らされた末に、久美はようやく見つけたアルバイトで食いつなぐしかなかった。
今では、フリーターとしてその日その日をやり過ごすだけの毎日だった。
そしてバイトのない休日は、こうして自慰に耽って過ごす。
それが今の彼女の日常だった。
かつて看護師として周囲の信頼を集めていた女の面影は、もはやどこにもない。
久美はスマホをもう一度起動させた。
そこには、かつて“彼”が保存していた、自分や同僚たちの写真が残っている。
春奈。
新人だった彼女の教育係は、久美だった。
気が弱く、それでも一生懸命で、久美を本気で尊敬していた後輩。
しかし、その彼女を久美は男の身体で何度も抱いた。
舌使いはぎこちなく、まだ男に慣れていなかった。
それでも、その若い身体には熟れた自分にはない瑞々しさがあった。
触れるたびに、若さの違いを嫌でも思い知らされた。
「はぁ……はぁ……春奈ぁ……」
記憶が蘇るごとに、久美の手の動きは激しさを増していく。
彼女の破瓜の瞬間も、初めて男を受け入れた奥の感触も、今なお鮮明に久美の記憶に残っていた。
「ぐぅ……っ!?」
ビュクッビュクッ。
二度目の絶頂。
どろりとした白濁を吐きだしてもなお、股間の熱は収まらない。次の刺激を欲しがるように肉棒が脈打つ。
もう、この身体が一度や二度では足りないことくらい、久美は分かっていた。
久美は指で写真をスライドさせる。
美波。
まだ若手だったが、要領がよく、仕事でも頼りになる後輩だった。
何度も組むうちに打ち解け、自然と親しい間柄になっていった。
そして、彼女も――
「美波……あぁ……」
欲望に負け、男と共謀して彼女を人気のない部屋へ誘い出した。
「先輩! なんで!」
彼女は、久美の身体になった男に向かって叫んだ。
その叫びを聞きながら、久美は男の身体のまま彼女を犯した。
春奈と同じように、瑞々しさをまだ色濃く残した肌。
その奥は驚くほど熱く、腰を動かすたびにきつく絡みついてきた。
そうした感触を思い出すたび、久美の脳裏には、自分が女だった頃の身体では到底及ばなかったという事実が嫌でも蘇った。
「くっ……ううぅ!!」
ビュルッ!
三度目の絶頂。
弾けるように肉棒が脈打つのと同時に、思い出していた過去の過ちへの罪悪感が込み上げる。
そこへ、女として敵わなかった記憶がもたらす敗北感と、そんな記憶にさえ昂ぶっている自分への屈辱が重なる。
「くっ……!」
その罪悪感と屈辱を振り払うように、久美は最後にもう一度写真をスライドする。
志保。
出会ったのは、もう十年も前だ。
同期であり、ライバルであり、友人でもあった。
早く出世試験を受けろと、よく口うるさく言われたものだ。
そんな彼女までも――
「ああ……はぁ……」
彼女が夫とうまくいっていないことは知っていた。
だから、酒で理性が緩めば、拒みきれなくなることも分かっていた。
「んん……くぅ」
三回の射精で萎えた肉棒を奮い立たせるように、ゆっくりと刺激していく。
この一年で、男として自分を慰める行為にもすっかり慣れ切ってしまった。
そんな自分の手つきが、久美にはひどく惨めだった。
「あぁ……志保……」
蘇るのは、男の身体で志保とバスルームで身体を重ねた、あの日――
久美の身体にも劣らない豊かな肉付き。それ以上に、記憶に深く残っているのは、志保の奥の熱だった。
触れた瞬間に絡みつくような柔らかさと、優しい締め付け。
若い春奈や美波とは違う、同世代の彼女が与えてきた快楽――
それは、元の身体では決して感じることのなかった感覚だった。
「んあっ!!」
ぴゅる。
四度目の絶頂。
吐き出された白濁に勢いはない。だがそれでも、久美が味わう快感はこれまでの絶頂に劣らなかった。
女として同僚に負けていた記憶が、彼女に惨めさと屈辱を呼び起こす。
それでもなお、久美はその屈辱にさえ欲情していた。
男根をぎゅっと握りしめ、最後の一滴まで搾り出すと、彼女はぐったりと仰向けに寝転んだ。
「うぅ……くぅ……」
くぐもった男のうめき声が、部屋の中に低く響く。
汗と白濁の匂いがこもる中、久美は一人、涙を流していた。
どうして、自分がこんな目に遭わなければならないのか。
どうして、あの時、入れ替わりを拒まなかったのか。
自慰が終わって冷静になるたび、彼女はいつも負の感情のループに沈んでいく。
久美はスマホをもう一度起動する。
そして、また自慰に耽った。
後悔も、喪失も、惨めさも、全てをかき消すように――。
そうして幾度か果てると、彼女はそのまま眠りに落ちた。
依存の果てに彼女を待っていたのは、救いのない惨めな現実だった。
fin
この小説は当サークルの同人誌『入れ替わり依存』のアフターストーリーです。
本編はFANZAおよびDLSITEで販売しています。
